かつて存在した、『ヒルマン』というイギリスの自動車。
ヒルマン車はどれも基本的に地味でしたが、一車種だけ、
とんでもなく冒険をしたものがありました。
それこそが、今回イラストで描いた車、『ヒルマン インプ』です。
インプはかの有名なミニに対抗するため、
1960年代前半にラインナップに入れられた大衆車でした。
車体後部にコヴェントリー・クライマックス製エンジンを積んだ、後輪駆動車だったのです。
これはエンジン前置き前輪駆動のミニとは間逆で、ミニをライバル視しているのは明らかでした。
グリルのついてないヒルマン車はこれが最初かつ最後で、
さらにはこの車はスコットランドに建てられた工場で量産。
ミニ同様に、味方ブランドを巻き込んでバリエーションを増やします。
スポーティな『サンビーム』、やや高級な位置づけとされた『シンガー』、
商用の『コマー』のそれぞれでインプ・ベースの車が登場しました。
ボディは基本の2ドア・サルーン、
全長の長いエステート・カー&バン(後部両側の窓がなく、ボディ・パネルになっている)に加え、
ミニにはなかった2ドア・クーペがありました。
サルーンはもちろん、クーペにまで乗用系3ブランドが用意されていました。
また、サルーン・ボディのパワーアップ版『ヒルマン ラリー・インプ』も一時期存在。
エステート・カーの名称は『ヒルマン ハスキー』。
これはインプ・ベースになる前までは『ヒルマン ミンクス』のワゴン版でした。
より小型でエンジンをリアに積んだエステート・カーに荷物積めるかどうかなんて
考えなかったのでしょうか(苦笑)。
バンは『コマー インプ・バン(諸説あり?)』のみでしたが、
同車は途中からヒルマン・ブランドに変更。
・・・とまあ、冒険(迷走)しまくりだったインプ軍団は、
ミニに比べてさほどかわいくないデザインでした。
味はあるものの、勝てる見込みのなさそうな形です。
実際、インプはミニよりも売れませんでした。
製造元ルーツ・グループが賭けた最後の冒険は失敗に終わり、
以後ヒルマン車および後継車たる『クライスラー(イギリス)』と『タルボット』は、
冒険とはまるで無縁な車となってしまったのでした。
インプは成功こそ収めませんでしたが、今もどこかで
オーナーによる個人規模の冒険はおこなわれていると思います。